こんにちは、クリエイティブ部サウンドグループのさだきちです。
前回はTokyo Demo Fest2018のDemo Compo優勝作品の解説~サウンド編~の記事で
映像に対する楽曲の作り方についてご紹介させていただきましたが、
今回は効果音の作り方をご紹介させていただきたいと思います。
効果音は
・生音を収録して作る(フォーリー)
・シンセサイザーを使用して作る
・効果音素材集の素材を組み合わせて作る
といった大きく分けて3種類に分類されます。
生音を収録して作る効果音はフォーリーと呼ばれ衣擦れや銃を構える音など、
現実にある音を再現することを得意とし、
シンセサイザーを用いて作る効果音は魔法のような現実には実在しない音や昔のアニメに使われるような誇張した音を得意とします。
今回はシンセサイザーを使用して現実には実在しない効果音を1から作る作り方について
ご紹介させていただきたいと思います。
今回は野球のバットで「カキーン!」とホームランを打つような誇張した効果音を
シンセサイザーを使って制作してみました。
作り方のフローとしては下記の3つとなります。
1.シンセサイザーで各パーツを作る(その時に出来上がった副産物なども保存しておく)
2.作った素材を混ぜ合わせる
3.混ぜ合わせて一つにしたものを最終調整して整える
今回はLennarDigital「Sylenth1」という減算方式シンセサイザーを使用して制作をしました。
他のシンセでも制作は可能ですが、
Sylenth1というシンセサイザーは音を鳴らした際に、
周波数帯域の上から下までのレンジが非常に広く再生でき、
20kHzから上の高音域も鋭く音が出せるため、
音が抜けるような派手目な音を作る際は、非常に相性の良いシンセサイザーとなります。
フィルターの効き具合も繊細に効くため、
ホワイトノイズを加工して風切りの音を制作する際にも非常に重宝しております。
まず最初にカキーン音の基礎となる音を作ります。
この音はホワイトノイズで作ります。
↑この音を加工して制作します。
このホワイトノイズをもとに、
付属のフィルターで下の画像のように加工を行います。
(beforeは初期設定の状態、afterが調整後)
今回は
ローパスフィルター(低い周波数帯域を通すフィルター)を使用し
CUTOFF(どれだけ音を絞るかの値)を20~30%程、
RESONANCE(どれだけカットオフ周波数の肩の部分を強く持ち上げるかの値)を100%にして、音をハウリングさせるような要領で音を作ります。
このように調整をすると以下のような音へと変わります。
フィルターを使ったことでどのようにホワイトノイズが変化したか
アナライザーを使用し視覚的に確認するとより理解が深まります。
ホワイトノイズは全ての周波数が均等な強度で鳴るノイズなため、
アナライザーで確認をすると上から下まで満遍なく周波数が散らされていることがわかります。
(このシンセサイザーの特性的に高い帯域が出やすくなっていることがわかります)
ハウリングしたような音に変わったことで一部の帯域が盛り上がり音階がつきました。
周波数帯域で一番盛り上がっているところが2300Hzあたりなので
ドレミファソラシドの「レ」の音が鳴る「カキーン」となる音がこれで作ることができました。
一度オーディオデータとして書き出したもの(wavデータ)に対して
波形編集としてピッチベンドをかける方法も有効です。
ただし、波形上でピッチを変えるとタイムストレッチがかかり、
音を高くなるように編集をすると尺が早回しになり、
音を低くなるように編集をするとスロー再生の効果がかかります。
長さを保持することも可能ですが、
その場合音質の劣化が起こるため、
意図的に使用する以外はあまりおすすめはしません。
波形を整えたあとに、
キーン!と伸びるような残響感をつけたいためリバーブをかけます。
(後程エフェクトをかける前の素材も使用するため、
かける前のデータも残しておきます)
今回はCubase / Nuendo付属のRoomWorksをインサートにかけて作りました。
高い音に迫力を持たせるためには、音の土台となる低い音も混ぜていくと効果的です。
スマートフォンのスピーカーからは聞こえづらい音ですが、
最近のゲーム、映画では印象つけたいときに使用される「どぅーん⤵」と鳴るようなサブベースという音を入れることで、
イヤホンや外部のスピーカーから再生したときに効果音をより迫力のある音へと昇華させることができます。
(サブベースに関する記事)
爆発で鳴るような少しザラッとした雑味のある低音が欲しいため、
ここではホワイトノイズを使用してサブベースを作ります。
(サイン波で使用する場合も多々あります。
サイン波を使うことで丸みのあるサブベースをつくることができます)
ここでもハウリングのような要領でホワイトノイズの帯域を持ち上げ、
音の輪郭を少しだけはっきりとさせたいため歪み(DISTORT)のエフェクトを画面中央から選択し、エフェクトをかけます。
また、その際、時間の経過とともにCUTOFFのパラメータに0に近づけるように、
フィルターが絞られて持ち上がってた帯域が低い方へ寄っていく挙動をさせることで
音程がどぅーん⤵と下がっていくように設定をします。
これでサブベースの音は出来上がりましたが、
サブベースの上の帯域がカキーンの音とぶつかって聞こえにくくなってしまうため、
サブベースの音はEQを使用して高い帯域の部分は抑え、
カキーンの高い音がしっかりと聞こえるように整理をすることでバランスがよくなります。
カキーンと球を打ったあとに発生する風の音を余韻として入れると、
より具体的な音となるため風の音もシンセサイザーを使用して作ります。
ここではホワイトノイズにバンドパスフィルターを使用することで、
風の「ひゅ~」という音を作ることができます。
(CUTOFFの値を動かすことで、からっ風のようなひゅるるる~とした音も作ることも可能です)
素材を作り終わったら
綺麗に音が鳴ったと感じるまで編集を加えながら混ぜ合わせます。
1_1で作った元の素材も音に芯を出すために混ぜあわせたり、
風の音のピッチをさげたり、
1_2で説明した長さを保持したストレッチにより音質の劣化した素材なども使い
一つの音としてまとまりが出せるよう、入念に調整を行います。
文章で説明するには情報量が多く難しいため、
実際に制作した際のシンセサイザーのプリセット、
wavの波形データでどのようにミックスしたのかを確認が出来る
Cubaseのプロジェクトを用意しました。
興味のある方はダウンロードして試してみていただけると幸いです。
以上、効果音の作り方の紹介でした。
今回はシンセサイザーだけを使用した効果音の作り方をご紹介しましたが、
バットを振る音、スイングしたときの衣擦れ音、
球が飛んでくる風圧の音や、
バッターボックスでスイングをするのであれば足が動いたときに鳴る土や砂利の音など、
生音と今回制作した誇張した音を混ぜて調整をすると
より説得力のある効果音が出来上がります。
機会があれば生音とシンセサイザーを使用した効果音の作り方についてご紹介したいと思います。
シンセサイザーで音作りをすれば、
素材集が無い環境でも手元で無限に素材を生成することができ、
音のバリエーションも増やすことができるため非常におすすめです。
このブログを読んでくださった方が、
シンセサイザーで作る効果音に興味を抱いて下さると大変嬉しいです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
KLabのクリエイターがゲームを制作・運営で培った技術やノウハウを発信します。
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