連載:モバイルゲームのアドベンチャーパート開発 Vol.3

 前回の解説ではアドベンチャーパートをどのように見せるべきか、他社ではどのような工夫をしているか、またユーザーの意識とそれに対してどのように見せていくかを記載しました。

 今回はこのユーザーの意識とそれを受け取る際にどのようなバイアスがかかっていて、それをどのように生かすのかをより詳しく記載していこうと思います。

アドベンチャーパートでの表現 - 2

ユーザーは作り手が思っているよりもよく見ている

 誰もが無料で手軽に遊べるソーシャルゲームによって、多くのアドベンチャーパートが世に溢れるにつれ、ユーザーの目も肥えていっています。たくさんのゲームをプレイし、それらを比較することで、工夫が凝らされた独自性のあるものか、これまで通りの工数削減だけを主軸に置いたいわゆる手抜きのものか、無意識的に良し悪しの判断ができるようになります。

 それによって、特に意識的な取り組みをしないで作ったり、工数ばかりを気にして作ったりしたアドベンチャーパートは、ユーザーから体裁を整えるために作っているだけで力を入れていないと気づかれてしまい、すぐにスキップされてしまうようになります。

 そうなってしまえば、シナリオがどれだけ面白くても、意味がなくなってしまいます。

 一般的に「シナリオが良い」「ストーリーが良い」と評されるゲームは、シナリオ自体が優れているというだけではなく、アドベンチャーパートにおいても、シナリオを最後まで読ませるための工夫が凝らされています。

 なぜなら、シナリオやストーリーがよかったとユーザーが判断するのは、最後まで読み切った後だからです。

 小説を読んでいるのではないのですから、ただシナリオがいいというだけでは、最後まで読んではもらえません。

 最初からアドベンチャーパートはおまけと割り切って、工数を削減するというのも開発においては一つの手段です。ですが、物語性をコンテンツの軸の一つとする場合は、工数の削減だけではなく、読ませるための工夫も合わせて考えなければ、思っていた通りの結果が得られなくなる可能性が極めて高くなることを覚悟しなければなりません。

簡単であり、難しくもある

 アドベンチャーパートを作るのは、難しいのでしょうか?

 答えは、イエスであり、ノーです。

 例えば、アクションのように、キャラクターが激しく動き回り、派手なエフェクトなどが画面を彩るような画面を作ろうと思ったら、多くの人は難しそうだと考えるでしょうし、実際に作ろうと思ったら、それなりに専門的な知識や技術が必要になります。

 それと比べると、アドベンチャーパートは、キャラクターの立ち絵があり、背景があり、テキストが流れているだけで、大きな動きはないので、簡単そうに見えると思います。

 そして、実際に作るにしても、スクリプトエンジンと呼ばれるアドベンチャーパートを作る際に使われるゲームエンジンのようなものを使えば、専門的な知識や技術がなくても作ることが出来ます。そのため、作ること自体は、簡単であると言えるでしょう。

 では、簡単にクオリティの高いものが作れるのか、というと、当然ながらそこまで甘くはありません。クオリティの高いものを作ろうと思うなら、相応に知識や技術が要求されることになるので、難易度が大きく上がります。

なぜ、アドベンチャーパートを作り込むのか

 昨今話題になっているゲームでは、工数削減ができるアドベンチャーパートを、わざわざ多くの工数を掛けて作り込んでいるものが数多く存在します。

 アドベンチャーパートに関しては、多くの会社がコスト削減を重視しがちですが、その風潮の中でコストを掛けてでもクオリティの高いものを作ることができれば、多くのゲームがリリースされる中で、ゲームのコア以外で明確な優位性を作ることができます。また、ゲームのコアとなる部分の面白さだけでなく、キャラクターや物語の面白さも合わせることで、面白さに深みが生まれることになります。

 これは、KPIのような数値に表れるようなものではありませんが、ゲームの評価やゲームをプレイする動機に大きな影響を与える要因となります。

スクリプトの重要性

 アドベンチャーパートのクオリティを左右する要因として、グラフィックやサウンド、シナリオと言ったリソース面を除けば、スクリプトがあります。

 スクリプトは、アドベンチャーパートで表示される画像の位置や表示を変更したり、サウンドを再生させたりと、アドベンチャーパート上での動作全般を制御するものです。

 そして、アドベンチャーパートを活かすも殺すも、スクリプト次第になります。

 スクリプトで使える機能を覚え、淡々と制御用の命令を列挙するだけでは、面白いものは作れません。

 私達が普段目にしたり耳にしたりする物事で、無意識下で処理されて表層意識にまで登ってこない動きを演出として組み込むことで、ユーザーに違和感なく演出を見せたり、映画やアニメ、ドラマなど、元となる映像コンテンツを擬似的に再現して、元となる作品を想起させたりするなど、限られた素材と機能を組み合わせて、ユーザーに適切なイメージを想起させることができて、はじめて、単なるテンプレートを超えたものを作ることが出来ます。

 そうした演出を組むためには、最終的にどのように見せるかを考え、場合によっては、数十個のオブジェクトの動きを計算したり、0.01秒単位でタイミングを調整したりと、緻密な制御が必要となってきます。

 こうした作業は、ただスクリプトの機能を覚えるだけで、できるものではありません。スクリプトの機能を覚えた上で、適切な演出を考え、それを実際にゲーム上の動きに落とし込んで実装する技術が必要となります。

スクリプトでの表現

 アドベンチャーの演出としては、おおよそ4段階のレベルがあります。

 ボールを投げるという行動を例に、それぞれの段階を表すと、このようになります。

  • 1段階目[常識] ボールを投げたら投擲方向に飛ぶ
  • 2段階目[予測] ボールを投げたら投擲方向に飛び、いつか落下する
  • 3段階目[認知] ボールを投げたら投擲方向に飛び、ゆっくりと落下する
  • 4段階目[演出] ボールを投げたら孤を描くように上昇し、重力の影響を受けて落下し、投擲者の視点からはボールが小さくなって何度か跳ねた後に転がっていく

 あまり面白くなかったり、見ていてすぐに飽きてしまうようなアドベンチャーパートに置いては、概ね、1段階目のレベルでしか、演出が行われていません。

 キャラクターが、機械的に左右中央の何処かに全く同じパターンで出たり、消えたりするだけのゲームなどが、この状態にあたります。

 2段階目になると、はじまりと結末を知っているので、過程を認知バイアスで補完する事が可能です。

 3段階目になると、より細かな動作のイメージを明示的にユーザーに伝えることができるようになり、4段階目になると、かなり正確な動作を伝えることができます。

 ただし、4段階目のレベルで演出を作るのは、制作にかなり時間がかかるのと、やりすぎてしまうと映像コンテンツの劣化版のような状態になってしまうこともあるため、クオリティは高い反面、塩梅が非常に難しくなります。

 これらを制作にかけられる工数や求められるクオリティとのバランスを見ながら、適切に組み合わせ、現実的な範囲で作品として落とし込んでいくことが大切です。

まとめ

  • 普段意識していない部分をスクリプトで演出することで、プレイヤーにこのゲームの強みを知ってもらうと少しの工夫で見え方が変わる
  • プレイヤーに細かい技術は伝わらなくても、プレイヤーがこれまでプレイしたゲームとの比較ができてしまうので、低品質なアドベンチャーパートはデメリットになることがある
  • 現在の市場では、少しの工夫でプレイヤーには違いが伝わる環境が整っている

総括

 これまでアドベンチャーパートの基礎から現在、そしてこれからどのように向き合うべきかを記載させていただきましたが、少しでも今後のアドベンチャーパート制作に活かしていただけましたら幸いです。

 市場にこれほど多くのテンプレートのアドベンチャーパートがあるのは、言い換えれば多くの人が基本的なアドベンチャーパートを理解しているということです。これまで同様のテンプレートではなく、一つか二つ、些細な違いを出すだけでもプレイヤーは気づき、それに対して反応を返してくれる環境が整っています。

 逆にここでテンプレート通りのアドベンチャーパートを作るということは、そもそもその作品を見る意味がなくなってしまうので、プレイヤーからすれば興味を持てるものではないでしょう。

 低品質で工数を節約して作るとしても、必ずほんのすこしの工夫は忘れないようにしましょう。

 一方でそういった事を考えた上で工数削減を優先的な目標として据えるのであれば、それは一つの手段として間違いではありません。ただし、その部分で他社の作品と比較されて低い評価を受けたり、そもそも読んでもらえなくなるようなリスクが存在するのを理解した上で、損切りをする覚悟が必要です。

 どの程度のクオリティにするのかは漠然とするのではなく、そのゲームに合った丁度いい塩梅を探す為の資料として他社のゲームと比較しながら、その時代に適切な表現を模索するのが良いでしょう。

 それでは、ここまで読んでいただきありがとうございます。

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