連載:モバイルゲームのアドベンチャーパート開発 Vol.1

 アドベンチャーパートというのは、シナリオに沿って、テキストと共にキャラクターのイラストやモデルを動かしたり、ボイスを再生したりする画面を指します。

 今回は、そのアドベンチャーパートについての詳細を簡単に解説していきます。今やソーシャルゲームに欠かせない要素なので、覚えておいて損はないと思います。

制作フローを知ろう!

 アドベンチャーパートで、基礎よりも最初に考えるべきは手順です。

 アドベンチャーパートは、一見すると特に難しい画面には見えませんが、シナリオ、キャラクターの立ち絵や背景などのグラフィック、ボイスやBGMなどのサウンドなど、非常に多くのリソースが絡むため、各リソースの制作から組み込みまで、長い時間が必要となります。また、個々のリソースがそれ単体で成立していたとしても、組み上げても矛盾なく成立するかは、全くの別問題となります。

 そのため、最初にどのようなものを作るのか、どのような見せ方をするのかなど、ある程度具体的な方針を定めた上で開発を行わないと、いざ組み込みをしてから、あれが足りないこれが足りないと、次々に追加発注が必要になったり、組み合わせてみたら矛盾してしまって、作り直しが必要になったりと、非常に簡単にコストが膨れていってしまいます。

 そうしたことが起きないようにするために、予め、きちんと制作フローを整え、各工程でどのようなリソースが必要になるのかを考えてから制作を始めなければなりません。

実際の制作フロー

 先にも述べたように、手順が非常に重要です。

 追加発注などが発生すれば、コストの面ではもちろんですが、その分、スケジュールも圧迫されます。そうなってしまえば、せっかくクオリティの高いリソースを作っても、組み込みに必要な時間が削られてしまい、それらの魅力を十全に活かすことはできなくなってしまいます。

 そうならないためにも、きちんと手順を把握しましょう。

flow

 細かい点を上げていけば、キリがなくなってしまいますが、実際の制作は、おおよそこのようなフローで進行します。

 それぞれの工程は、上流工程に大きく依存しているため、下流工程に進んでから、上流工程で大きな変更などが入ると、その間に行った作業などが全て無駄になってしまうといったことも珍しくありません。

 特に、組み込み工程にあたるスクリプト制作に入ってからそうした状態になってしまうと、非常に大きな手戻りとなってしまうため、非常に多くのセクションに影響を与えるともに、スケジュールを非常に圧迫することになるので、この段階まで来てから問題が起きた場合、場合によっては、変更や対応ができなくなる可能性もあります。

 そうしたことが起きて、本来想定していたクオリティのものが作れなくなってしまったりしないように手順をしっかりと守り、万全の状態でアドベンチャーパートを作りましょう。

アドベンチャーパートの基本と歴史

なぜ、アドベンチャーパートは必要なのか?

 今や当たり前になっているアドベンチャーパートは、なぜ必要なのか。大きく分けて2つ理由があります。

  • シナリオをわかりやすく理解してもらう
  • 工数の節約

 この2つが主な理由です。

 コンシューマではアニメや3Dムービーで説明する事も多いですが、アドベンチャーパートの利点としてはムービーよりも自分のペースで読める、スチルなどで2D画像で状況を理解してもらえる、3Dよりも漫画的な表現やアニメ的な表現を取り込めるなどの利点があります。

今までは工数の部分だけが重視されていた

 これまでソーシャルゲームのアドベンチャーパートは、前項であげられていた2つのうちの一つ、工数の節約が主に考えられていました。確かにムービーと比べれば、アドベンチャーパートの工数は雲泥の差です。

 ですが、昨今では工数の節約は一定あるものの、クオリティの高いものが出てきました。

 もともとアドベンチャーパート自体は、美少女ゲームや乙女ゲームといった単一でも成立する文化だった為、そちらのゲームジャンルでは、クオリティは常に発展してきました。更に、ムービーでは表現しづらい漫画的な表現やアニメ的な表現が違和感なく印象的にすることも可能であり、今現在ではアドベンチャーパートならではの表現を行うことでムービーよりもわかりやすくユーザーに物語を伝えることが出来るという点が注目され始めました。

飛び抜けた作品が目立つように

 昨今のアドベンチャーパートは、これまでのテンプレートから脱して新たな表現を模索しています。

 その理由は、

  • シナリオを目立たせなければユーザーの離脱が多い
  • アドベンチャーパートを利用したそれにしかできない叙述的なトリックや創意工夫された演出が面白さを与える

 この2つが大きいでしょう。

 極論を言ってしまえば、ゲームのコアとなる部分が単体で極めて面白く、それだけでユーザーが十分に満足できるだけのものを作ることができるのであれば、アドベンチャーパートなどは、完全に不要です。ですが、それを実現するのは現実的にかなり難しいため、ストーリー性という軸で面白さを補強するためにアドベンチャーパートが採用されます。

 そのため、シナリオは、ある程度面白いというのが基本になってきています。また、ソーシャルゲームにおいて、メインの商材となるキャラクターの、キャラクターとしての魅力を最も引き出せるのがアドベンチャーパートです。いくらビジュアルだけが良くても、愛着を持てないキャラクターを使い続けて、プレイングのモチベーションを保ち続けるのは難しいです。

 そして、アドベンチャーパートという限定的な環境だからこそ出来る演出もあります。

 キャラクターの見せ方を調整して、ユーザーを意図的にミスリードさせたり、錯視を利用して本来存在しない奥行きを表現したりと、様々な演出が昔から考えられてきました。そうした独特の表現は、素材の性質やレイアウトが似通ったものになる他のゲームのアドベンチャーパートとの差別化のポイントにもなります。

簡単に見えるのに、出来不出来が存在する理由

 アドベンチャーパートを作ろうと思って、実際の画面をイメージした際、難しそうだな、大変そうだな、という印象を抱く方は少ないかと思います。実際、リソースさえ揃えられるのであれば、アドベンチャーパートの制作自体は、ツールの使い方などを覚えられれば、誰にでもできるものです。

 簡単なら誰にでも出来る、にも関わらず、良いものと悪いものが存在するのはなぜでしょうか?

 もちろん、ビジュアルやシナリオなど、比較的わかりやすい部分での優劣もありますが、それだけではありません。

 1+1という問題を解く時、誰もが安直に2という答えに結びつけますが、それは共通認識によって理解しているというだけです。どうして1+1が2になるのかをきちんと説明しようとすると、数学的な証明でもそうですが、数学以外での表現に用いられる場合でも非常に難しいことになります。

 アドベンチャーパートは、そうした性質のオンパレードです。説明をしなくても、共通認識によって理解してもらえるというものが数多く存在し、表面的な部分だけを見れば同じに見えても、その実態が異なることで納得感に大きな差が生まれます。

 例えば、リンゴ1個とリンゴ1個を足したら、「リンゴ」が2個になります。

 では、リンゴ1個とオレンジ1個を足した場合は、どうなるでしょうか?

 この場合は、「果実」が2個になります。

 どちらも、1+1であり、答えは2ということになりますが、中身は別なものになってしまいます。

 背景があって、立ち絵が出てくる。アドベンチャーパートにおいて、最も基本的な状態の一つであるこれも、これまでのゲームや昔の人形劇でそういうものだという認識が既に出来上がってるからこそ成立しているものです。

 答えとしては、背景と立ち絵を出すだけで最低限成立します。ただし、それは、なんとなく理解できるだけで納得はできていないのです。

 現実世界で考えれば当たり前と言っていいことですが、人は透明になったり、瞬間移動したりすることはできませんから、特定の場所にいるという状態にいきなり切り替わったりはしません。例えば、その場所に歩いて移動してきて、その結果、視界に入った、というような過程などがあって、その場所にいるという状態になるのです。

 そうした部分を無視してもなんとなくは成立しますが、そこに少しだけ横方向に移動させたり、フェードを入れたりすることで、過程が生まれ、なんとなくでしかなかった理解がより鮮明なものへと変わります。さらに、移動の緩急の付け方や速度、時間などにも変化を加えることでより解像度が上がっていきます。

 そうして、当たり前だと思って意識から外してしまうようなものを認識し、適切にデフォルメして表現の中に落とし込んでいくことで、表現に説得力を与えることができるようになります。

 派手な演出やかっこいい動きなども大切ですが、アドベンチャーパートで何より重要なのは、この当たり前の現象の納得にユーザーを誘導する事です。

参考資料

まとめ

  • 制作フローは遵守しないと事故が起きる
  • きちんと作れば、ゲームの継続率を高める事が出来る
  • 工数の節約は出来るが、初めから節約する事だけを考えるのは避けた方がいい
  • 一見すると些細な演出の積み重ねがアドベンチャーパートのクオリティを引き上げ、ユーザーに経験を積ませて複雑な演出を認識させることができるようになる

より詳しく知りたい方へ

このブログについて

KLabのゲーム開発・運用で培われた技術や挑戦とそのノウハウを発信します。

おすすめ

合わせて読みたい

このブログについて

KLabのゲーム開発・運用で培われた技術や挑戦とそのノウハウを発信します。