ローカライズ問題(アラビア語の場合)前編 ローカライズの目的と重要性 - ユーザーエクスペリエンスへの配慮

ローカライズの重要性

コンテンツを他の国で配信する時に行われるローカライズですが、ローカライズを行う際に、何をするか、どこまでするか、気を付けるポイントについてまとめるにあたり、実際にあった事例を元にお話をしたいと思います。それによって、その業務の幅広さや、難しさの一端、そして、その慌ただしい空気感が、できるだけ伝われば良いなと思います。それが、今回のタイトルにもなっている「ローカライズ問題(アラビア語の場合)」になります。

アラビア語に限らず、ローカライズをするのに、本当の意味で簡単な言語というのはないと思います。ただ、英語などは馴染み深く、比較的分かったような気持ちになれる言語ではないかと思います。しかし、本当の意味での深いローカライズ、つまり対応する言語の文化に合わせた調整までを考えると、実は彼らと我々の間には、言語だけではない、考え方や感じ方に大きな溝があることが分かってきます

コンテンツを他の国で配信するというのは、それら文化に対しての理解と思索を抜きで考えることは難しいと思います。もちろん、言葉だけ翻訳してコンテンツをリリースすることは可能です。しかし、ただ翻訳されても、それが彼らに対してどう受け取られるのかを理解していないと、正しいマーケティングはできないですし、彼らを味方につけることもできず、時には不快にさせてしまうことさえあります。

そこで重要になってくるのが「カルチャライズ」です。言語のみを翻訳することが「ローカライズ」であれば、文化までを考慮して対応することを「カルチャライズ」といいます。つまり、ローカライズは、カルチャライズの一部分であり、カルチャライズはよりローカライズの上位互換ということになります。

image2.png

感性の違い

「わかっているようでわかっていない」ということを、カルチャライズをする時にいつも感じます。アラブ諸国でスタンダードな食べ物のデーツですが、健康面で注目されていますが、味という意味では日本ではあまり人気がありません。理由はその強い甘さにあるようです。現地では、そのものすごく甘いデーツに胡桃を詰めて、さらに甘いチョコレートでコーティングしたお菓子が人気です。不思議なことに実際に現地に行って、宗教上の理由から長期間お酒を断たれ、現地の食事をして、その気候に慣れてくると、ある日突然、チャンネルが変わったようにそのスイーツが美味しく感じられるようになるのです。その滋味に富んだ甘味が、どんなに心をうるおしてくれるかを理解しました。表面上わかったような気がしても、感性というところで、なぜそれを良いと感じるかについては、滞在してみないと、なかなか理解できていないものです。

例えば、色やデザインの好み、選ぶフォントなど国によって全く異なります。ただ、それなりにその国を知っていたりすると、先入観が邪魔をしてしまい、その文化を客観視することができなくなります。その意味でアラビア語のローカライズは当時の私にとっては好都合でした。なぜなら、アラビア文化に関して、失礼な話ですが、あまり何も知らず、先入観もなかったからです。つまり、見るものすべてが新鮮で、知らないという前提で相対することができるというわけです。

深く観察し、その文化を理解できてくると改めて「ローカライズ」について浅く考えているコンテンツが多いことが見えてきます。日本のコンテンツを海外ローカライズした時にはそれに気づくことは難しいのですが、その逆の場合にはわかりやすいと思います。ローカライズする側がこれでいいだろうと思っていても、される側からしたら、なんて失礼なんだ!と憤慨することもあります。下手な日本語ローカライズを見た時にそれは顕著です。そんな時、自分達の文化をないがしろにされた気がするものです。「海外で人気のコンテンツがこんな雑なローカライズをするんだ」と驚くこともしばしばです。

UXに影響するカルチャライズ

「ローカライズ」とは「言葉を翻訳してコンテンツをその国で配信できるようにすること」という狭い意味で考えると、痛い目にあいます。センテンスひとつとっても直訳するだけでは意味が伝わらないことだってあります。例えばアラビア語で「ある日はハチミツ、ある日は玉ねぎ」という文章。これは、勝つ時も負ける時もあるよという意味の諺です。日本でいうところの「勝つも負けるも時の運」というやつです。日本では意味のない常套句が、もしかしたら、相手を傷つける表現になることだってあり得ます。

「ユーザーがそれに対してどう感じるのか」を考えるのは、ユーザー体験(UX)をデザインすることにとって最も重要なステップです。それを抜きでローカライズするのであれば、本来そのサービスにあったはずのUXはローカライズすることで失われるでしょう。コンテンツの熱量を、失われることなく相手に伝えるためには、カルチャライズというステップは必須であると言えます。

そのコンテンツに対して日本人が感じることと同じことを、ローカライズの対象となる国の人々が感じてくれるとは限りません。そこでコンテンツをその国の人々に向けて届ける際、言葉を翻訳するだけではなく、製品を配信する国の文化に合わせて見直すというステップを行います。フィルターを通すという言葉の方が適切かもしれません。

image6.png

この方に記事を用意していただきました!

satomunesan.png

里宗 巧麻
UI・UXグループマネージャー

この記事はローカライズについての前段です。

次回はカルチャライズについてより詳しくお話ししようと思います。

デザインを科学する「ニューロデザインラボ」で記事を掲載中です。

このブログについて

KLabのクリエイターがゲームを制作・運営で培った技術やノウハウを発信します。

おすすめ

合わせて読みたい

このブログについて

KLabのクリエイターがゲームを制作・運営で培った技術やノウハウを発信します。